高血圧の治療

1. 生活習慣の修正

生活習慣の修正項目

1 食塩制限 6g/日未満
2 野菜・果物の積極的摂取
飽和脂肪酸,コレステロールの摂取を控える
多価不飽和脂肪酸,低脂肪乳製品の積極的摂取
3 適正体重の維持:BMI(体重[kg]÷身長[m]2)25未満
4 運動療法:軽強度の有酸素運動(動的および静的筋肉負荷運動)を毎日30分,または180分/週以上行う
5 節酒:エタノールとして男性20-30mL/日以下,女性10-20mL/日以下に制限する
6 禁煙

生活習慣の複合的な修正はより効果的である
*カリウム制限が必要な腎障害患者では,野菜・果物の積極的摂取は推奨しない
肥満や糖尿病患者などエネルギー制限が必要な患者における果物の摂取は80 kcal/日程度にとどめる

 

日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会(編).高血圧治療ガイドライン2019.P64表4-1

生活習慣の修正は、高血圧予防および降圧効果において重要です。また、降圧薬開始後も生活習慣の修正によって降圧薬の作用の増強や投与量の減量が期待できるため、生活習慣の修正はすべての高血圧患者に対して指導が求められます。
生活習慣の主な修正項目としては、図に示すとおり、食塩制限、栄養素と食事パターン、適正体重の維持、運動療法、節酒、禁煙があります。

 

食塩制限に関しては、過剰摂取が血圧上昇と関連することが観察研究で報告されており1)、介入試験では減塩による降圧効果も明らかにされています2,3)。食塩の摂取を6g/日未満に制限することで有効な降圧が得られ、脳心血管病イベントの抑制が期待できることから、減塩目標値を1日あたり6g未満にすることが強く推奨されています。

 

生活習慣の修正はそれぞれの修正項目単独による効果は大きくありませんが、複合的な修正により大きな降圧効果が期待できます。そのため、多職種の医療スタッフで指導や管理などを行い、生活習慣の複合的な修正を促すことが重要です。

 

1) INTERSALT Cooperative Research Group. BMJ. 1988; 297: 319-328
2) Whelton PK, et al. JAMA 1998; 279: 839-846
3) Sacks FM, et al. N Engl J Med. 2001; 344: 3-10

2. 薬物療法

➀第一選択薬

主要降圧薬の積極的適応

主要降圧薬の積極的適応

*1 少量から開始し,注意深く漸増する
*2 冠攣縮には注意

 

日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会(編).高血圧治療ガイドライン2019.P77表5-1

主要降圧薬の禁忌や慎重投与となる病態

主要降圧薬の禁忌や慎重投与となる病態

*1 両側性腎動脈狭窄の場合は原則禁忌
*2 5章 5.「3)ACE阻害薬」を参照

 

日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会(編).高血圧治療ガイドライン2019.P77表5-2

多くの高血圧患者において、生活習慣の修正のみで目標降圧レベルに達することは困難であるため、降圧薬による治療が必要となります。

 

現在、高血圧に対してはCa拮抗薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、サイアザイド系利尿薬、β遮断薬の5種類が第一選択薬として位置づけられています。いずれの薬剤も大規模臨床試験において脳心血管病抑制効果が証明されていますが、表に示すとおり、各薬剤の積極的適応となる病態[左室肥大、左室駆出率(LVEF)の低下した心不全、頻脈、狭心症、心筋梗塞、蛋白尿/微量アルブミン尿を有する慢性腎臓病(CKD)]は異なります。そのため、個々の高血圧患者の病態に応じて適切な降圧薬を選択します。また、各薬剤の禁忌および慎重投与となる病態についても十分に注意を払う必要があります。

 

②降圧薬の使い方

降圧目標を達成するための降圧薬の使い方

降圧目標を達成するための降圧薬の使い方

日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会(編).高血圧治療ガイドライン2019.P77図5-1

降圧治療の最終目的は脳心血管病発症の予防であり、降圧薬の投与開始後は降圧目標の達成を絶えず念頭に置いて降圧治療を進めることが求められます。

 

図に示すとおり、Ⅰ度高血圧(診察室血圧140-159mmHgかつ/または90-99mmHg)で合併症がない場合は、単剤を少量から開始し、降圧効果が不十分であれば増量、あるいは他の降圧薬の併用を少量から開始します。 Ⅱ度以上(診察室血圧160mmHgかつ/または100mmHg以上)の高血圧、もしくはⅠ度高血圧でも脳心血管病リスクが高い場合には、通常用量の単剤もしくは少量の併用から開始し、必要に応じて通常用量の併用あるいは組み合わせを変更します。ただし、2剤併用で降圧目標に達しなければ、3剤併用、さらに4剤併用を考慮します。

 

なお、降圧薬の使い方としては1日1回投与を原則としており、降圧速度については、降圧目標に数ヵ月で到達するくらい緩徐な方が望ましいとされています。

積極的適応がない場合の降圧治療の進め方

積極的適応がない場合の降圧治療の進め方

※1 高齢者では常用量の1/2から開始, 1-3か月の間隔で増量
※2 5章6.「治療抵抗性高血圧およびコントロール不良高血圧の対策」を参照

 

日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会(編).高血圧治療ガイドライン2019.P78図5-2

主要降圧薬の積極的適応となる病態がない場合は、ARB、ACE阻害薬、Ca拮抗薬、サイアザイド系利尿薬のいずれかを第一選択薬とします。そして、次のステップで第一選択薬の組みあわせによる2剤併用、さらには3剤併用が推奨されています。

③併用療法

2剤の併用

2剤の併用

日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会(編).高血圧治療ガイドライン2019.P79図5-3

異なるクラスの降圧薬の併用に関して、同一薬を倍量投与するよりも降圧効果は大きいことがメタ解析で示されています1)
現在、第一選択薬として位置づけられている薬剤による併用では、➀ACE阻害薬あるいはARB+Ca拮抗薬、②ACE阻害薬あるいはARB+サイアザイド系利尿薬、③Ca拮抗薬+サイアザイド系利尿薬の組み合わせが推奨されています。

 

1) Wald DS, et al. Am J Med. 2009, 122: 290-300

④治療抵抗性高血圧、コントロール不良高血圧の対策

治療抵抗性高血圧およびコントロール不良高血圧の対策

1 生活習慣、服薬アドヒアランス不良、白衣高血圧・白衣現象などの要因を考慮する。
2 十分な問診を行い、生活習慣の修正および服薬指導を行う。降圧治療では、利尿薬を含む作用機序の異なる薬剤を多剤併用する。降圧薬は十分な用量を使用し、服薬の回数や時間を考慮する。
3 MR拮抗薬は治療抵抗性高血圧への追加薬として降圧に有用である。
4 臓器障害が存在する可能性が高いことなどから、適切な時期に高血圧専門医の意見を求める。

日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会(編).高血圧治療ガイドライン2019.P87 POINT5bより抜粋

クラスの異なる3剤(利尿薬を含む)の降圧薬を用いても、目標血圧に達しない場合は、治療抵抗性高血圧と定義されます。また、2-3剤の降圧薬でコントロール不良であるが定義を満たさないものや利尿薬が使用されていない場合は、コントロール不良高血圧として扱い、治療抵抗性高血圧と同様の対策が求められます。

 

治療抵抗性あるいはコントロール不良高血圧を示す症例に対しては十分な問診を行い、要因として、小さすぎるカフの使用など血圧測定上の問題、白衣高血圧や白衣現象による影響、服薬アドヒアランスや生活習慣に関わる問題、二次性高血圧などがないかどうかを確認した上で、適切な対策をとることが重要です。

 

降圧薬治療の対応については、増量または服用法(服薬回数や服用時間)の変更、MR拮抗薬や交感神経抑制薬の追加投与、さらなる併用療法を考慮します。なお、治療抵抗性およびコントロール不良高血圧の症例では、臓器障害が存在する可能性や脳心血管病リスクが高いことなどから、適切な時期に高血圧専門医の意見を求めることが望ましいとされています。