今さら聞けない医学統計の基本

医学統計の基本シリーズ第1回:
臨床研究の種類と特徴
解説4:解説(研究デザインとエビデンスレベル)

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エビデンスレベルという言葉は、ガイドラインでよく目にします。

若林君の言うとおり、ある治療方法の効果が質の高いエビデンスで裏付けられているかは、とても重要なポイントです。では、何をもって質の高いエビデンスというか分かるかな?

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うーん・・・観察研究のときに出た「バイアス」が関係していますか。

そう!真の値からの系統的な偏りのことをバイアスといって、誤った結論を導く原因になります。このバイアスをできるだけ排除できるような研究は、「質が高い」といえます。

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図 エビデンスレベルのランク
(出典:山崎力、小出大介:臨床研究いろはにほ、31ページ、ライフサイエンス出版、2015(一部改変))

一般的に、臨床試験はバイアスを排除するように計画して研究ができるから、観察研究よりもエビデンスレベルが高いといえます。

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円城寺先生、エビデンスレベルが最も高いシステマティックレビュー、メタアナリシスとはなんですか・・・?

システマティックレビューは、過去に行われた臨床研究を網羅的・系統的に調査して同質の研究を集め、バイアスの危険性を評価しながら分析・統合する方法です。代表的なものに、Cochrane レビューがあるけど、たぶん聞いたことがあるんじゃないかな。
さらに臨床研究を信頼できるものにしぼり、それぞれに重み付けを行ったうえで、効果指標の値を統計学的手法で定量的に統合する方法がメタアナリシスです。

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図 システマティックレビューにおけるメタアナリシスのイメージ

たとえば、複数の研究結果が一致しないときは、どれが正しいのか分からないよね。でも、メタアナリシスを行って複数の研究をまとめると、一定の結論を導くことができます。
でも、いくらメタアナリシスだといっても、注意しないといけないことがあって、その結論はメタアナリシスが行われた時点での結論だから絶対的なものではないというのがその一つ。その後に行われた大規模なRCTと結果がちがうこともあります。

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だとすると、最新の大規模なRCTの方が、エビデンスレベルは高いような気もするのですが…

基本に戻ると、質の高いエビデンスとは、できる限りバイアスを排除した研究のことだったよね。メタアナリシスは、バイアスの影響を極力排除して、評価基準を統一したうえで、多くの研究結果を数量的、総括的に評価してあるからこそ、エビデンスレベルが最も高いといえます。

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なるほど~。ところで、新薬の第Ⅲ相試験はRCTですよね。質の高いエビデンスがあって、薬として承認されれば、あとは医師の裁量で使用経験を積んでいけばいいような気もするのですが、なぜ発売後にも臨床研究をするのでしょうか。

良い質問だね。RCTのエビデンスレベルは高いけど、「厳密な比較」に重点が置かれているので、実際の臨床とは違う集団だということを知っておく必要がある。それから、観察研究よりも短期間で、限られた人数・条件の患者集団を対象とするため、まれな副作用の検出などには向いていないんだ。
より実臨床に近い条件で薬の安全性を確認するために、発売後にコホート研究、具体的には使用成績調査という登録観察研究がしばしば行われていて、私もいくつか協力してるよ。

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先生方のおかげで、臨床研究について理解が深まりました!ありがとうございます!

では、最後に今回のまとめです。

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第1回 「臨床研究の種類と特徴」 まとめ

  1. 臨床研究にはいくつかの研究デザインがあり、それぞれにメリット・デメリットがあり、目的に適した研究デザイン(観察研究、介入研究)が選択される。
  2. 「観察研究」は、個人や集団の健康状態や診療記録をありのまま観察して、データを分析する研究
    1. 横断研究:対象者を1回だけ観察する研究
    2. 縦断研究:対象者を2回以上繰り返し観察する研究
      1. 前向き研究:コホート研究
      2. 後ろ向き研究:ケース・コントロール研究(症例対照研究)など
  3. 介入研究は、被験者に投薬や手術など、「介入」する研究
    1. 並行群間比較試験:被験者を群に分け別々の薬剤投与や手術を行い(介入)その効果を比較する試験
    2. 交差試験(cross-over study):同じ被験者に時期を変えて2つ(又は2つ以上)の薬剤などを投与(介入)しその効果を比較する試験
      (以上、介入研究の代表例)
  4. 研究デザインとエビデンスレベル
    バイアスをできるだけ排除できるような研究デザインは、「質(エビデンスレベル)が高い」

 

参考資料

1) 山崎力、小出大介:臨床研究いろはにほ、ライフサイエンス出版、2015