今さら聞けない医学統計の基本

医学統計の基本シリーズ第4回:
リスク比とオッズ比、相対リスクと絶対リスク
解説3:相対リスクと絶対リスク

相対リスクは、薬効を評価する場合にしばしば用いられる指標です。
投薬によってどの程度イベントリスクが減少するかを見たものが「相対リスク減少率(relative risk reduction:RRR)」で、1から相対リスクを引いた値で示されます。

Alt tag

たとえば、降圧薬Xとプラセボについて、5年後の一次エンドポイント(心筋梗塞+脳卒中+心血管死の複合)の発症について比較したとする。相対リスク減少率はどう解釈できるかな?

Alt tag
  降圧薬X群 プラセボ群
5年後の一次エンドポイント発症率(心筋梗塞+脳卒中+心血管死の複合) 14.0%
(651/4,645例)
17.8%
(826/4,652例)
相対リスク(RR) 14.0÷17.8=0.78
相対リスク減少率(RRR) 1-0.78=0.22(22%)

 

表 プラセボを対照とした降圧薬Xのイベント発症に関する相対リスクと相対リスク減少率
(出典:山崎力, 小出大介:臨床研究いろはにほ,62ページ,ライフサイエンス出版,2015)

Alt tag

降圧薬Xは、プラセボに比べてイベント発生リスクを22%低下させるということでしょうか??

その通り。では、同じ相対リスク減少率でもこちらの降圧薬Yの場合はどうかな?

Alt tag
  降圧薬Y群 プラセボ群
5年後の一次エンドポイント発症率(心筋梗塞+脳卒中+心血管死の複合) 0.60%
(28/4,646例)
0.77%
(36/4,653例)
相対リスク(RR) 0.60÷0.77=0.78
相対リスク減少率(RRR) 1-0.78=0.22(22%)

 

表 プラセボを対照とした降圧薬Yのイベント発症に関する相対リスクと相対リスク減少率
(出典:山崎力, 小出大介:臨床研究いろはにほ,62ページ,ライフサイエンス出版,2015)

Alt tag

相対リスク減少率は前の試験と同じですが、降圧薬Y群もプラセボ群も一次エンドポイント発症確率が低いですね。

そう。そこに気付くべきなんだ。降圧薬XとYの治療薬の有用性を相対リスク減少率で表わすと、最終集計時のイベント発症確率が異なっていても、同じように22%となる。
降圧薬Yのように、臨床上はわずかな差であっても大きな数字に置き換えられることがあるから、相対リスク減少率の解釈は注意が必要なんだ。

Alt tag
Alt tag

なるほど!はじめに「相対リスクでなく絶対リスクでみたほうがいい」とおっしゃった理由がこれですね。

大事なことに気付いたね。「絶対リスク減少率(absolute risk reduction:ARR)」を用いることで、治療薬がプラセボよりどれだけ多くのひとを救うことができたのか、数値化できるんだ。

Alt tag

絶対リスク減少率は、プラセボ群のイベント発症確率から治療薬投与群のイベント発症確率を引いた値です。さっきの降圧薬XとYで考えるとこんな感じね。

Alt tag
  降圧薬X群 プラセボ群
5年後の一次エンドポイント発症確率(心筋梗塞+脳卒中+心血管死の複合) 14.0%
(651/4,645例)
17.8%
(826/4,652例)
相対リスク(RR) 14.0÷17.8=0.78
相対リスク減少率(RRR) 1-0.78=0.22(22%)
絶対リスク減少率(ARR) 17.8-14.0=3.8%

 

表 プラセボを対照とした降圧薬Xのイベント発症に関する絶対リスク減少率
(出典:山崎力, 小出大介:臨床研究いろはにほ,62ページ,ライフサイエンス出版,2015)

  降圧薬Y群 プラセボ群
5年後の一次エンドポイント発症確率(心筋梗塞+脳卒中+心血管死の複合) 0.60%
(28/4,646例)
0.77%
(36/4,653例)
相対リスク(RR) 0.60÷0.77=0.78
相対リスク減少率(RRR) 1-0.78=0.22(22%)
絶対リスク減少率(ARR) 0.77-0.60=0.17%

 

表 プラセボを対照とした降圧薬Yのイベント発症に関する絶対リスク減少率
(出典:山崎力, 小出大介:臨床研究いろはにほ,62ページ,ライフサイエンス出版,2015)

Alt tag

降圧薬XとYで、絶対リスク減少率に大きな差があるということですね!でも、降圧薬Yの絶対リスク減少率0.17%は、どのように解釈すれば良いですか??それなりに効果はあると考えても良いのでしょうか??

良い感覚だね。若林君がいうように、絶対リスク減少率をもとにどの程度の治療効果が期待できるのかを考えてもピンとこないことがあるんだ。そこで「NNT」という指標が活用できる。

Alt tag
Alt tag

NNT・・・??また難しそうな言葉ですね・・・