今さら聞けない医学統計の基本

医学統計の基本シリーズ第4回:
リスク比とオッズ比、相対リスクと絶対リスク
解説4:NNTとは

「NNT(number needed to treat、治療必要例数)」とは、絶対リスク減少率の逆数で示される値で、治療効果を得るのに必要な人数のことです。
NNTの値が小さいほど治療が有効である確率が高く、NNT=1はすべての人に治療が有効であるということになるわね。

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強引に言い換えると、「いったい何人に1人の確率で治療が有効であるのか」と解釈することもできるね。

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若林君が疑問に思った Yの治療効果でいうと、こんな感じね。

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  降圧薬Y群 プラセボ群
5年後の一次エンドポイント発症確率(心筋梗塞+脳卒中+心血管死の複合) 0.60%
(28/4,646例)
0.77%
(36/4,653例)
相対リスク(RR) 0.60÷0.77=0.78
相対リスク減少率(RRR) 1-0.78=0.22(22%)
絶対リスク減少率(ARR) 0.77-0.60=0.17%
NNT 1÷0.0017≒588

 

表 プラセボを対照とした降圧薬Yのイベント発症に関するNNT
(出典:山崎力, 小出大介:臨床研究いろはにほ,62ページ,ライフサイエンス出版,2015)

NNT=588とはつまり、588人に降圧薬Yを投与すると1人のイベント発症を抑制できるという意味ね。

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日本の高血圧患者さん、588人に1人の確率でイベント発症を抑制できる、ということでしょうか。

若林君、「母集団」と「標本」の違いを忘れてないかい。

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あ!そうでした!日本の高血圧患者ではなくて、この試験における高血圧患者ですね。言い換えると、「1人の患者を救うため、588人に降圧薬Yを5年間飲み続けてもらう必要がある」ということでしょうか。

そう考えると解釈しやすいだろう。NNTは、シンプルに効果の比較ができる数値だけど、イベント発症確率などのデータも踏まえた上で、正しく解釈しなければならない。

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わかりました!
先生方のおかげでリスク比とオッズ比の違いや相対リスクと絶対リスクの計算方法を理解することができました。ありがとうございました!

では、ここで今回のまとめです。

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第4回 「リスク比とオッズ比、相対リスクと絶対リスク」 まとめ

1. 相対リスクとオッズ比

  • 相対リスク(RR)
    「ある状況下におかれた人の病気になる確率」を「ある状況下にない人が病気になる確率」で割った数値。コホート研究等で使用される指標。
  • オッズ比(OR)
    ケース(患者)についてある状態(例えば高血圧など)である確率を、その状態ではない確率で割った値(オッズ)を計算し、同様に計算したコントロール(非患者)のオッズで割った値。ケース・コントロール研究等で使用される指標。
  • 発症確率が低い疾患の場合は、オッズ比は相対リスクに近い値となる。
  • 発症確率が低くない疾患の場合は、オッズ比と相対リスクは乖離する。
  • コホート研究では、相対リスクもオッズ比も計算できるが、ケース・コントロール研究では相対リスクは計算できない。
  • 相対リスク、オッズ比はいずれも0~∞の値をとる。
  • 相対リスク、オッズ比はいずれも95%信頼区間(95%CI)の値が1をまたいでいなければ「有意差あり」。


2. 相対リスクと絶対リスク

  • 相対リスク減少率(RRR)
    1から相対リスクを引いた値。対照に比べどの程度リスクが減少するかを見るもの。
  • 絶対リスク減少率(ARR)
    対照のイベント発生確率から介入(又は曝露)のイベント発生確率を引いた値(リスク差)。
  • 治療必要例数(NNT)
    絶対リスク減少率の逆数で示される値。小さいほど介入(又は曝露)の効果が高い。

例)NNT=10は1人に治療効果を得るために10人に治療する必要がある。NNT=1は全員に治療効果が得られる。

 

参考資料

1) 山崎力、小出大介:臨床研究いろはにほ、ライフサイエンス出版、2015