今さら聞けない医学統計の基本

医学統計の基本シリーズ第5回:
Kaplan-Meier曲線を理解する
解説2:生存時間解析の特徴-「打ち切り」

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生存時間解析の特徴-「打ち切り」

「心筋梗塞の再発」など、イベント発現をエンドポイントとする場合は、例えば服薬後一定期間の血圧をすべての対象例で定期的に観察するような治験のパターンとは少しやり方が異なるんだ。

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臨床試験では、全症例が一斉に試験をスタートするわけではなくて、試験開始日、データ集積日も症例によって異なりますが・・・
イベントはいつ発現するか分からないため、ずっと観察を続けなければならないですよね。

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そうだね。だからイベント発現をエンドポイントとする試験では、最終的に全員が同時に観察を終えるようになっているんだ。

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図 研究目的別 データの集積パターンの比較

ここで問題になるのが、データが抜け落ちること、つまり「脱落」ですね。

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三宅先生!ここが分からなかったところなんです。どのような理由で脱落するんでしょうか?

引っ越しや行方不明で追跡が不可能になった場合や、インフォームドコンセントを取得して試験参加の同意を得たものの、途中で患者さんが嫌になって同意を撤回してしまう場合もあるんだ。
それ以外に、明確なプロトコル違反があった、などの理由により脱落してしまうこともある。
これらの患者さんはすべて「脱落による打ち切り症例」というんだ。

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「打ち切り」のような不完全なデータの存在を考慮した点が、生存時間解析の特徴ですね。打ち切りデータの数や出方で、その研究の信頼性をある程度読み取ることもできますよね。

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それは、「脱落例が0なら信頼性が高い」ということですか?

実はそうではないんだ。
若林君が考えるとおり、脱落はないに越したことはないが、逆に全く脱落がないと試験の信頼性が疑わしくなるんだ。
臨床試験という「ヒト」を対象にした研究を行う以上、例えば同意撤回による脱落は一定確率で起こるだろう。ある人は、「同意撤回による脱落が1例もないのはおかしい」というかもしれない。

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脱落例がいることが、臨床試験としては自然だということですね。

とはいえ、脱落はなるべく少ないほうが研究の質は保たれるから、同意撤回が多すぎても良くない。研究の質を担保するためには、脱落を避けるために最大限の工夫が必要なんだ。

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そういえば、ここまでに出てきた「打ち切り」は、「悪い打ち切り」といえますが、これとは全く別の打ち切りもありますよね。言わば「良い打ち切り」でしょうか。

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え!「打ち切り」に良い悪いがあるんですか??

実は、イベントを発症せずに試験終了日を迎えた患者も「打ち切り症例」として扱われるの。これがさっき言った「良い打ち切り」のことね。
つまり、打ち切りとはこういうことですよね、三宅先生。

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打ち切り
イベントを発症せず試験が終了した症例と脱落症例の両方が含まれる

そうだね。Kaplan-Meier曲線では、理由に関わらず、試験終了時点に打ち切り線を入れるんだ。

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Kaplan-Meier曲線のヒゲの裏には、様々な事情があるんですね。やっと理解できました。

では、いよいよKaplan-Meier曲線を書いてみましょうか。

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