今さら聞けない医学統計の基本

医学統計の基本シリーズ第6回:
研究の質を評価する
解説2:対象者、症例数が適切かどうかを見極める

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対象者の選択は妥当か?

医学研究では、ほとんどの場合、一部の症例(標本集団)を対象として研究し、それをもとに対象者が所属するカテゴリーのすべての患者(母集団)での結果を推定します。これは第2回で説明したわね。

円城寺

母集団の中から、一部の人を抽出することを「サンプル抽出(sampling)」といいます。サンプル抽出の妥当性を判断するため、設定された対象者が母集団の代表となっているかどうかを確認します。
例えば、次の例文を見てどう思う?

円城寺
目的:
腹痛の訴えで病院に来た患者の病因を調査する。
 
方法:
□△婦人科病院で腹痛を訴えて来院した500人で、原因を調査、解析した。

(出典:浅井隆:いまさら誰にも聞けない医学統計の基礎のキソ 第3巻,46ページ,アトムス,2010)

若林

あれ?目的は「腹痛の訴えで病院に来た患者」での病因の調査であるのに、この方法だと対象者が「女性」だけに偏ってしまいますね。

そうだね。つまり標本集団が母集団の代表になっていないよね。
医学論文では、【方法】の項で、どのような人を対象としたかの「選択基準(inclusion criterion)」、どのような人は対象としなかったのかの「除外基準(exclusion criterion)」が詳細に書かれているので、是非確認しましょう。

円城寺

ただし、はじめに抽出された対象者が母集団の代表といえる集団であっても、最終的な統計学的解析の対象集団が母集団の代表でないと意味がないんだ。
以下の例文を見てみよう。

miyakae
目的:
新薬Xと従来薬Yの降圧効果を比較する。
 
対象:
高血圧の男女1000例
 
方法:
対象を無作為に、新薬X群または従来薬Y群に500例ずつ割り付け、盲検下で治験薬を投与した。
 
結果:
新薬X群の男性全例で重大なプロトコル違反があったため、研究を中断した。
若林

これでは、新薬X群の解析対象者が女性だけになってしまいますね。

そう。これでは母集団の代表とはいえない。
これは極端な例だが、脱落例、追跡不能例が多すぎると、最後まで研究の対象となった人が母集団の代表になっていないことがあるんだ。
プロトコル違反でなくても、様々な理由で研究途中で対象者が変わってしまうことがある。

miyakae
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選択基準に合う候補の人が、研究への参加を拒否した

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研究調査期間中に、対象者と連絡がとれなくなった

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投与した薬に対してアレルギー反応を起こし、研究を中断した

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誤って予定された薬と違う薬を投与した

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対象者が研究と無関係の理由で死亡した

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記載したデータが紛失したなど

(出典:浅井隆:いまさら誰にも聞けない医学統計の基礎のキソ 第3巻,55ページ,アトムス,2010)

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対象患者数は妥当か?

研究の対象が妥当であると判断されたら、対象患者数が妥当であるかを確認しましょう。第2回で紹介したように、対象者数は通常、「サンプルサイズ推定」で決定されます。

円城寺

論文の【方法】の項に対象者数を決めた根拠が書かれていれば、妥当な対象者数であると考えて良いだろう。

miyakae

ここまで理解できたら、研究の質を評価する最後のポイントが「無作為化」と「盲検化」です。詳しく見ていきましょう。

円城寺