今さら聞けない医学統計の基本

医学統計の基本シリーズ第6回:
研究の質を評価する
解説3:二重盲検無作為化比較試験の信頼性が高いワケ

第1回で、「誤った結論を導きやすい要素(バイアス)」をできるだけ排除できている研究は、「質が高い」こと、盲検化、無作為化は、このバイアスを排除するための有効な手段だということを説明したよね。

円城寺

質の高い臨床試験を行うためには、盲検化、無作為化だけではなく、治療の効果判定に影響をおよぼすようなバイアスを取り除くような工夫もされます。ここでのバイアスは、自然治癒、プラセボ効果、ホーソン効果が挙げられます。

円城寺
若林

プラセボ効果はよく聞きますが、ホーソン効果は初めて聞きました。

では、3つのバイアスをまとめておきましょう。

円城寺

自然治癒:

時間経過とともに症状が軽快、または病気が治癒すること。

 

プラセボ効果:

薬物効果のない偽薬を飲んだ人が本物の薬と思い込むことで出た結果。

 

ホーソン効果:

対象者が、信頼する医師の期待に応えようと行動の変化を起こし、病状が良くなることをいう。プラセボ効果の一部として取り扱われることもある。

治療効果に影響を及ぼすバイアス

図 治療効果に影響を及ぼすバイアス
(出典:浅井隆:いまさら誰にも聞けない医学統計の基礎のキソ 第3巻,55ページ,アトムス,2010)

これらの要因を取り除くための方法が「対照群の設定」、「対象者の盲検化」、「研究者の盲検化」、「無作為割付」なんだ。
それぞれを見てみよう。

miyakae
black-diamond.svg

対照群の設定

対象患者全例に同じ治療をした場合、自然治癒であるのか、治療による効果であるのか判断できないよね。対照群としてプラセボ投与群を設定することで、両群の差が治療による効果と判断できるようになります。

円城寺

最近は、倫理的な理由もあって、対照群にはプラセボではなく、研究対象となっている薬と同一の薬効を持つ既存薬を使う場合が多いんだ。

miyakae
black-diamond.svg

対象患者の盲検化

プラセボ効果やホーソン効果を取り除くため、患者さんがどちらの群に割り付けられたか、どちらの薬をのんでいるか分からないようにすることが、「対象患者の盲検化」。患者さんに割り付け群の情報を伝えないだけでなく、プラセボを使って、自分ののんでいる薬がどちらか分からないようにします。

円城寺
若林

実薬同士を比較する場合、例えば錠剤とカプセルなど、剤形が異なる場合はどうやっているんですか?

良い質問だね。その場合は、それぞれのプラセボを作って、どちらが投与されているか分からないようにするんだ。これを「ダブルダミー法(double dummy)」という。

miyakae
薬剤の剤形および内容の割付群別比較

図 薬剤の剤形および内容の割付群別比較

若林

確かに、これではどちらが投与されているか全く見当がつかないですね。

black-diamond.svg

研究者の盲検化

若林

患者さんは勿論ですが、研究者も目の前の患者さんに何を投与しているか分からない状態であった方が良いですよね?

もちろん!例えばある新薬に対する期待が大きい研究者に対して、患者さんの投与群と被験薬の情報が盲検化されていない場合、新薬に有利なことをするかもしれないよね。意図的でなくても同じようなことをするかもしれない。
患者さんに対して研究者の対応が変わると、患者さんの治療に対する姿勢にも偏りが出てくる、つまりホーソン効果を生じる可能性があるということね。

円城寺

それを防ぐための手段が、研究者の盲検化なんだ。患者がどちらの群に割り付けられているか、研究者が知らない状態であれば、意識的にも潜在的にも患者への態度を変えることがなくなる。

miyakae
若林

研究者が、臨床研究の結果を変えるようなことがあるんですか??

「人」が行う研究である以上、意図せず判断が偏ってしまうこともある。患者さんが割り付けられている群と被験薬の情報が分かっている状態では、なおさらそういうことが起こってしまうだろう。それが何十人、何百人と集まったらどうなるかな?

miyakae
若林

誤った結論を導いてしまうかもしれませんね。

そうだね、だから研究者の盲検化は重要なんだ。

miyakae

対象者および研究者がどちらのグループに区分されたか分からないようにする方法を「二重盲検法(double blind method)」、一方、対象者のみが盲検化された研究方法は、「単盲検法(single blind method)」といいます。

円城寺
black-diamond.svg

無作為割付

盲検化を完璧にするため、臨床試験では一般的に無作為割付が行われていますね。

円城寺

無作為割付は、第三者がサイコロを振って対象者を各グループに割り付けるような手順、つまり被験薬と対照薬の割付順もバラバラにするということだね。対象者および研究者は、どちらのグループに所属しているのか、規則性による推測ができなくるんだ。

miyakae
若林

一人一人を割り付けるのは大変じゃないですか。たとえば、カルテ番号の偶数・奇数で分けたらどうなんでしょう?「ランダム化」になりますか?

それはランダム化とはいえないわね。カルテの番号や来院の順番で割り付けて、研究者が規則性に気づくと、どうなるかな?

円城寺
若林

規則性からの推測を患者さんに伝えてしまうかもしれませんね。良い結果が期待できることが伝わってしまうと、ホーソン効果でバイアスが生じるかもしれません。

そうね。それから、臨床研究は全対象が一斉に治療を始めるのではなく、試験開始日、データ集積日は対象患者によって違うことを話したよね。

円城寺

例えば脱水が起こりやすい夏に治療薬Aの投与が、涼しくなった秋に治療薬Bの投与が集中すると、気候変化による効果への影響も否定できないよね。
このような治療以外の要因を取り除くために、無作為割付が必要とされるんです。

円城寺
若林

だから二重盲検無作為化比較試験の質が高いと評価されるんですね。
そういえば、よく論文で目にするPROBE試験とはなんでしょうか。

PROBEとは、前向き(Prospective)、ランダム化(Randomized)、非盲検(Open)、エンドポイント盲検化(Blinded Endpoint)試験のことなんだ。
PROBE試験の解釈では注意が必要なのでよく覚えておこう。

miyakae