月経困難症・子宮内膜症患者さんのQOLからLEP処方を考える【前編】
開催場所:東京プリンスホテル 4F 葵
開催日:2019年10月24日(木)17時~18時半
現代⼥性のライフスタイルの変化にともない、月経痛が日常生活に及ぼす影響は多様化しています。こうした状況下で、実地臨床では月経困難症・子宮内膜症患者さんのQOLとどう向き合い、どのように評価していくのかが課題の1つとなっており、QOLの向上に向けてはLEP(低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬)が重要な役割を果たすものと考えられています。そこで本座談会では、QOLの重要性およびQOLの向上を意識した治療の実践について、4名の先生方にご討議いただきました。
北里大学 産婦人科 准教授
吉野 修 先生 (司会)
東京大学医学部附属病院
女性診療科・産科 講師
廣田 泰 先生
赤羽駅前女性クリニック 院長
深沢 瞳子 先生
アトラスレディースクリニック 院長
塚田 訓子 先生
北里大学 産婦人科 准教授
吉野 修 先生
司会
はじめに
吉野先生
最初に、子宮内膜症におけるHealth-Related QOL(HR-QOL)についてお話させていただきます。医師による疾患評価と患者さんの自覚症状にはギャップがあると言われていますが、現在はPatient-Centered Medicineに移行しつつあり、医師の意見よりも患者さんの意見、希望、満足度を評価 することが重要視されています。そこで注目されているのがPatient-Reported Outcomeであり、評価にはVASなどの症状スケールやHR-QOL尺度、治療満足度や労働生産性が用いられています。HR-QOL尺度の1つであるSF-36は、身体的・精神的な側面に関する8項目の質問に対する回答をスコア 化して評価する もので、スコアが低いほどQOLの悪化を意味します。
SF-36を用いて子宮内膜症患者さんのQOLを検討したスウェーデン人のデータによると全項目のスコアで子宮内膜症患者さんは一般女性に比べて低く、さらに30歳未満の患者さんほどスコアが低くQOLの悪化傾向が示されています(図1)1)。また、SF-36を用いた他の海外データでは「痛み」、「健康感」、「活力」、「社会生活」、「心の健康」に関して、子宮内膜症患者さんは関節リウマチの女性よりもスコアが有意に低く、QOLは悪化していることが示されています2)。
図1:年齢、性別を合致させた一般的なスウェーデン人集団と子宮内膜症患者のSF-36スコアの比較
1)Lövkvist L, et al.: J Womens Health(Larchmt). 25(6): 646-53, 2016から改変
利益相反:本論文の著者のうち3名は、バイエル薬品株式会社の社員である。
一般的に、子宮内膜症は“異性との関係や社会生活”に悪影響を及ぼすと言われています。10ヵ国で実施された調査によれば、子宮内膜症患者さんの約半数は周囲の人との関係悪化を訴えており、子宮内膜症が原因で離婚した人は19%を占めていました。その他に、16~23歳までの人は学業に、24~34歳の人は就労に、35歳以上の人は金銭面で子宮内膜症による影響を受けているとの報告があります。トルコ人の学生を対象としたデータでは成績や学校生活への適応が悪いほどVASも高く、月経痛が学業に支障を来たすことが示唆されています。就労に関しては、希望の職業に就くことができなかった割合が、一般女性に比べ子宮内膜症患者さんで約1.8倍も高いというデータがあります。さらに金銭面では、日本において子宮内膜症による生産性損失は1人当たり年間約18万円で、外来医療費と生産性損失をあわせた経済的負担は全体で年間6,830億円に上るとされています。
このように子宮内膜症は様々な面に影響を及ぼし、それは患者さんの年齢によっても変化します。こうした現状を踏まえ、ディスカッションを進めていきたいと思います。
求められるOC・LEPに対する認識のアップデート
吉野先生
現在診療されている患者さんの年齢層などについてお聞かせください。
深沢先生:
当院は20~50代まで各年代の患者さんが各20%という構成ですが、月経痛の相談で受診する10代も増えていて、中高生は親御さんが連れてくる場合と、親御さんに隠れて本人だけが来る場合があります。
塚田先生:
私のところは10代が1割、20代が4割、30代が3割で、小中高生は親御さんと一緒に来る方が圧倒的に多いです。親御さんから「ピルを飲ませてもいいですか?」という相談が増え、OC・LEPに対するハードルは以前より下がってきた印象もありますが、親御さんの中には断固として反対する方もいらっしゃいます。
深沢先生:
親御さんの世代のOC・LEPに対する認識は避妊薬であって、“血が固まる、乳癌になる”といったイメージが未だに強いですね。
吉野先生
学校の先生方の認識についてはいかがですか。
塚田先生:
OC・LEPに対する認識や月経への理解は、学校の先生方もまだ十分ではありません。養護教諭から「小学生でも生理をずらしてもよいですか?」と質問を受けたことがありますし、初経が始まったばかりで卵巣機能が不安定なため出血が続き、プールの授業を休むと、体育教師に「また、サボっているのか」と怒られて登校拒否になってしまった子が相談に来たことがあります。
ですので、学校の先生方にも月経やOC・LEPについて正しい知識を持ってもらえるように、産婦人科医が積極的に働きかけていくべきだと考えています。
深沢先生:
塚田先生が活動してくださっているおかげですが、最近は養護教諭向けの勉強会が増えており、月経のたびに保健室に来るような子には、養護教諭から産婦人科を受診するよう勧めてくださる動きもあります。その一方、産婦人科医の中には10代へのOC・LEP処方にまだ消極的な先生も多くい らっしゃるわけで、まずは産婦人科医の認識を変えていく必要があるのではないかと感じています。痛みの有無だけではなく、月経に付随する様々な症状や、月経の煩わしさそのものから女性を解放する方法に、産婦人科医はもっと目を向けていくべきなのではないでしょうか。
月経に関する患者さんの悩みをどう引き出すのか
吉野先生
子宮内膜症が患者さんのQOLに与える影響については、どのようにお考えですか。
深沢先生:
子宮内膜症患者さんは月経痛以外にも、性交痛や排便・排尿時の痛みなどがあり、痛みの訴えはかなり多様化していますが、日々の生活全般において苦痛を伴うと思います。
塚田先生:
そうですよね。なのに、「生理だから仕方ない、女だから我慢しなさい」と言われてしまうことが多く、実際、患者さんには周りの人に理解してもらえない辛さもあります。
吉野先生
我慢するのが当たり前という感じなのですね。
月経に関する患者さんの悩みは、外来でどのように聴取されていますか。
塚田先生:
例えば、痒みで受診された場合であっても、月経周期や痛みの程度を必ず確認しています。そうすると、月経痛が主訴でなくても月経に関する悩みを相談してもらえるので、“患者さんが困っていることをどう引き出すか”が重要だと思います。
深沢先生:
私も同じです。主訴が何であっても、ウェブ問診で最終月経とその時の月経困難症スコアを取り、そこから詳しく患者さんの話を聞いて診療を進めています。