スチバーガにおける手足症候群の予防方法
予防のポイントを知ろう
手足症候群は命に関わる症状ではないものの、重症化すると日常生活に制限が生じたり、治療中止になる可能性があるため、患者さんは身体的にも精神的にもつらい思いをすることになります。
手足症候群の重症化を防ぐためには、患者さん自身の手足症候群への理解とセルフケアのための情報提供が必要です。ここでは、患者さんへの指導に役立つ、手足症候群の予防のポイントをご紹介します。
手足症候群予防のポイントは「保湿」「刺激除去」「角質処理」
手足症候群の予防のポイントは「保湿」「刺激除去」「角質処理」の3つです(図1)。このうち、「保湿」と「刺激除去」は、患者さん自身による毎日のケアが重要になります。
図1:手足症候群の予防法

保湿のポイント
まず、保湿のポイントをみていきましょう。手足に保湿剤をこまめに塗って、皮膚が乾燥したり硬くなるのを防ぐことが、手足症候群の予防につながります。手を洗った後や入浴後など、水に触れたら必ず保湿をするよう指導します(図2)。
図2:保湿のタイミング

手足を洗ったとき以外も、手足が乾燥することがないように、1日に数回保湿剤を塗るよう指導することも重要です。入浴やシャワーの後は、10分以内を目安に速やかに保湿剤を塗り、皮膚の乾燥を防ぎます。また、保湿をした後は、木綿の手袋や靴下を着用すると乾燥を防ぐことができます。
使用する保湿剤は、保湿効果の持続時間、低刺激性、抗炎症作用、角質軟化作用などの違いから、尿素含有製剤、ヘパリン類似物質含有製剤、白色ワセリンなどさまざまな種類があります(表3)。病院で処方されるもののほか、塗り心地のよい市販のハンドクリームを使用してもかまいません。
また、保湿剤のべたつきが気になる場合はローションタイプに変更できる場合もあるため、患者さんの意向を確認しましょう。
表1:手足症候群に対して使用される主な保湿剤(例)
種別 | 商品名 | 期待効果 |
---|---|---|
尿素含有製剤 | ケラチナミンコーワクリーム パスタロン®ソフト軟膏 パスタロン®クリーム ウレパール®クリーム ウレパール®ローション | 保湿効果と角質軟化作用がある。 刺激性があり、傷がある場合使用しにくい。 顔には不向き。 |
ヘパリン類似物質含有製剤 | ヒルドイド®クリーム ヒルドイド®ソフト軟膏 | 刺激性が少なく、顔にも使用可能。 |
ビタミン含有軟膏 | ザーネ®軟膏 | ビタミンA含有、皮膚浸透性がよい。 |
ジメチルイソプロピルアズレン含有軟膏 | アズノール®軟膏 | 抗炎症作用がある。 |
白色ワセリン | 白色ワセリン | 作用時間が長く、保湿効果は高い。 べたつきが強いため、就寝前に使用するなど工夫が必要。 |
グリセリン | ニュートロジーナ®ハンドクリーム | 主に保湿効果。 |
西田俊朗監修:GISTガイドブック. 2014:p74より改変
保湿のポイント
保湿剤の分量は、手のひら2枚分の保湿に対して、クリーム・軟膏では人差し指の第1関節より少し多めの量が目安です。ローションの場合は1 円玉より一回り大きい量になります(図3)。
塗る際は、手のひらを使ってやさしく押さえるように塗ることがポイントです。また、足もできるだけ同時に塗るように指導すると忘れません。
図3:保湿剤の塗り方

保湿剤を指先に取る。
手足症候群に対する保湿剤の分量の目安は、手のひら2枚分に対して人差し指の第1関節分より多め。
(ローションの場合、1円玉より一回り大きい量。)
足に塗る場合は、手のひらの場合より少し多めに取る。

刺激除去のポイント
手足症候群は、乾燥、圧迫、摩擦などといった皮膚への刺激がきっかけで発症すると考えられています。そのため、日常生活を工夫して、手や足の裏への刺激を除去、軽減する必要があります。
手を保護するためには、木綿の手袋をつけることをすすめましょう。保湿剤を塗った後、手袋をつけることで乾燥も防ぐことができます。また、水仕事・掃除・庭仕事など手足に負担のかかる作業をするときは、保湿剤を塗り、木綿の手袋の上にさらにゴム手袋をするなどして十分な保護をするよう指導しましょう(図4)。
足を保護するためには、靴や靴下の選び方がポイントです。締め付けの強い靴下は避け、木綿の厚めの靴下を選びます。靴はヒールが低く、足に合った柔らかいものを選ぶよう指導しましょう(図4)。
図4:刺激除去のための工夫


さらに、皮膚への刺激を避けるために、表2に挙げるようなことを日常生活で心がけるよう指導しましょう。
たとえば、足の裏に負担のかかる長時間の歩行やジョギングなどを行わないようにし、手の特定部分に強い力がかかりがちな包丁の使用やぞうきん絞りなども極力控えます。また、直射日光による刺激が症状を悪化させますので、外出時には日傘や帽子、手袋、長袖の上着などを使用し、肌の露出部分にはサンスクリーン剤を使用します。
表2:刺激除去のポイント
物理的刺激を避ける |
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熱刺激を避ける |
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皮膚の保護 |
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2次感染予防 |
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直射日光にあたらないようにする |
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厚生労働省(2010)重篤副作用疾患別対応マニュアル 手足症候群
(http://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1q01.pdf)
角質処理のポイント
最後に、角質処理のポイントをご紹介します。手足症候群は角質が肥厚した部分に生じやすいため、スチバーガ®治療前に角質を処理しておくことが推奨されます。
必ず、スチバーガ®の投与開始前に、手のひらや足の裏に角質肥厚がないかどうか確認してください。角質処理の必要があれば、皮膚科医に相談しましょう。角質の不適切な自己処理は2次感染を誘発する危険があるので、決して患者さん自身の判断で軽石やかみそりを用いた処理を行わないよう、指導しておく必要があります。
また、水虫や胼胝腫(たこ)、鶏眼(うおのめ)などがある場合にも皮膚科医に相談し、スチバーガ®治療前に処置を行ってください。
手足症候群の予防における指導のポイント
手足症候群予防のための保湿セルフケア実施状況を患者さんに確認すると、「ちゃんと保湿している」と答える患者さんが多いかもしれません。
しかし、実際には、保湿剤の量や塗る回数が不十分であったり、刺激を与える塗り方であったりと、誤った方法でケアしている可能性があります。そのため、実際にどのようにケアをしているかを見せてもらい、改善が必要な場合には、患者さんの手に保湿剤を塗りながら説明すると患者さんの理解度が高まります。
また、手足症候群予防のための刺激除去方法については、患者さんの生活環境や趣味、仕事の内容によって指導すべきポイントが異なります。それぞれの患者さんに合わせた、実施可能なケアを提案していくとよいでしょう。
さらに、手足症候群を早期に発見できれば、スチバーガ®の減量・休薬など適切な対処によって重症化を防ぐことも可能です。患者さん自身が日頃から手足をよく観察して、少しでも変わったことがあれば、我慢せずに自己申告するよう指導することが大切です。手足症候群の症状を見逃さないよう、患者さんをサポートしましょう。